【前回の記事を読む】古代日本史の謎! 『記紀』における皇統の考古学的証拠との矛盾。編纂者の意図から読み直すもう一つの歴史
文献・金文の章
第四話 「神代」巻の成立
「神代」には編纂時の意図を推察させる三点の特徴がある。
①表意漢字の表音漢字への変換、翻訳、すなわち訓注である。本文にも見られるが、多くは小字二行に書かれた注釈としてである。
『日本書紀』の「神代上」巻の冒頭に「国常立尊(くにのとこたちのみこと)」の「尊」を「命」で用いることもあるが、「美挙等(みこと)と訓(い)う」とある。
訓注は「神武天皇紀」以降にも現れるが、圧倒的に「神代」に見られ神代紀の特徴と言える。
②他書の引用が数多く見られる。『日本書紀』には「一書曰(あるふみにいわく)」の書き出しで始まる他書からの情報の追加が「神代」に非常に多く見られる。
このことから類推すれば、『記紀』編纂時に伝承された神話には不確実な部分があり、参考資料を必要としたのではないだろうか。
イザナギ、イザナミの日本列島創生の記事には一〇種が、イザナミの死とイザナギの黄泉での出来事に一一種の書物が引用されている。『日本書紀』の編纂にあたり一〇種以上の神話資料が存在したことになる。
③神の系図の短さに驚かされる。「神武天皇」からの皇統譜を見ると、「神武天皇」が縄文・石器時代まで続く長いものである。
それに対して「神武天皇」の五代前に天照大神が位置する。『日本書紀』には「神武天皇」の曽祖父が天降ってから、一八〇万年ほど経過したとの記述がある(引用資料四‐一)。
この数字に意味はないが、権威付けを考えるならば太古から連綿と続く系譜を載せても良いはずだ。神の系譜の短さの理由は何なのか。
これらの三点を考察することにより、『記紀』編纂時での「神代」成立過程を理解したい。