アイデアというものは、論理のはしごをボカッっと外して、想定外の解決策を出すことがあるやろ。常識に沿いたい側からすれば、ぐるぐるポンッへの、恐れやコンプレックスも、あるんちゃうかな。データや形式にして理解できないものを、ひとは恐れるんやな。

「でも、論理は必要だろう?」

「いいアイデアには、必ず腑に落ちる思考が内に納まっとるわ。ひとを説得するとき、それを引き出して論理にすればよい。むしろ論理の手前にあるべき、アイデアがはっきりしない時こそ、説得は難航するやん。企画書がデータで分厚くなって、言い訳に聞こえる」

オッチャンが自分のグラスに氷とワインを足す。

「ワイは、〈調整〉という仕事が、どうも発想の生み合いを避けているような気がする」

「毎日の仕事の、なにをやめてしまえば、あんなに楽しそうに打ち合わせできるかしら。あの大テーブルの空気感が、仕事に欲しいのよね」

「なにをやめるか? おお、足すより引くほうが、ええのかもな。おばちゃん、グッドな問いやな」

「おばちゃん言わんといて、オッチャン」

グラスがすいすい空いていく。ほらな。ワインの極みは、のどごしやん。

棟梁が手洗いに立つ合間、それまで神妙にしていたYOさんが、まわりに話しかける。

「あのさ、細かい質問で悪いんだけど。こういう空間でね」シュウトくんのPCを指さす。

「その、土間から上がるとき、クツを脱いで、畳の感触がわかるようになるもんなの?」

「アバターが、クツを脱ぐ!」シュウトくんが再びフリーズする。

「まったく考えていませんでした」

「足裏の感覚か。いまのところ技術は、眼と耳と指の触感……肌の感覚」ジョージも考える。

風のゆらぎ、光のぬくもり、冷たくてあたたかい畳の感触。時間と空間のリアリティ。