【前回記事を読む】宮大工に伝わる「東西南北」の考え方——エネルギーのたまり場を建物に活かす〈四神相応〉や方角ごとに植えるべき植物があって…
第四章 過去にひそむ未来
クマくんが大きな身体を脱力するように、音にならない息をつく。ほかのみんなも、身のまわりにはない、壮大な仕事観に触れたような気がした、
大テーブルには、気持ちのよい沈黙が訪れた。熱心に話してくれた棟梁は、タエさんのピンチョスを、無邪気にぽんぽんと口に運んでいる。
アボガド、アンチョビオリーブ、ムール貝。小海老のフリットをつまんだ匠の目が、一瞬光った。むむ、このマヨネーズ……できる。酢の味、黒コショウの使い方、豆板醤を少したらしているのか。私はこの味に、どこかで出会っているような気がする。
棟梁は遠い記憶を探すように、頭上でゆったりまわるシーリングファンを眺めた。
カウンターのオトナ3人組は、2本目のワインにとりかかっていた。
「ほれ、あそこで職人とハッカーと科学ライターとコンサルが、ずっぽり創発しておるわ。それを検索オタクが、黙々と深掘りしてんねん。なんとまぁ、うつくし~い景色やのぉ」
「アイデアって、ああいう場面から、偶然のようにぐるぐるポンッて生まれるんだよな。そういうぐるぐる時間を、いまの職場や働き方に期待するのは、もう難しいのかな」
「あら、お役所で『難しいですね』って言われたら、それは、『面倒だからやりたくない』っていう意味なのよ」
「ワイやネイビーは、『前例がない、難しそうだ』を散々ひきおこして、いまがある」
「そうだったかな。セイちゃんは、けっこう丁寧に対応して、でも好きにやってた」
「難敵ばかりやったな。はなから論理的に考えたいひとたちにとって、アイデアなんちゅうものは、不安定で隙だらけ、いい加減な思いつきにみえてしまうらしい」