「でもなにか、思い悩んでいる感じだね」

「そうなのかな?」

僕のモヤモヤとした気持ちは、そんなに表情に出ているのだろうか。

「もし悩んでいるのなら、解決してきなよ」

「……え?」

「このままじゃ、前に動き出せないよ。就活も全部上手くいかなくなる」

本当にそうだろうか。それは僕にまたあの頃の苦痛を味わえと言っているようなものだ。もしそんなことをしたら、僕はどうなってしまうんだろう。でも、僕の中にたしかにこれまでになかった疑問が生まれているのも事実だ。

遥香は今、どうしているんだろう?

そう思うと急に知りたくなった。なぜだろう。こんなにも長いこと、開けないように蓋をしていたのに。今になって突然、ものすごく急激な勢いで、遥香にまた会いたいという感情が湧き出てきた。まるで、ずっと準備をしていたのを、前園さんに押し出されたかのように。

でも、僕の中にまだ臆病な僕が眠っているのも事実だ。だから訊いてみた。

「ねえ、もし知りたくてどうしようもないことがあったとして、それがものすごく怖い事実を秘めている可能性があるとしたら、それでも知りたいと思って行動できる?」

前園さんは目を丸くする。驚いているようだ。そしてその理由を、しばらくしてから気づいた。僕の方から前園さんに話しかけたのは初めてだった。

「パンドラの箱か! うーん、そうだなあ。でも私だったらそれでも知ろうとすると思う。知らなければ後悔するのは確実じゃん? でも知ったら案外、想定していたものよりも軽かったりするかもよ」

前園さんは意外にも、丁寧に僕の納得できるような話をしてくれた。

「やっぱり、なにかあるんだね」

「うーんと……」

「大丈夫大丈夫。訊かないからさ。でも優くんがずっと悩んでいるのは、よくない状態だと思うよ。だから自分がちゃんと前に進めるまで、深く追求してみたらいいんじゃない?」

やはり僕は顔に出やすいタイプのようだ。ほとんど前園さんに気づかれている。でも、そんな前園さんでさえ、僕の過去は受け止めきれないだろう。だから前園さんには感謝しつつも、詳しくは話さないようにする。少々、申し訳ない気持ちが芽生えたのは、前園さんが真剣に僕に助言をくれたからだ。僕が思っていたよりも、いい人なのかもしれない。

「ありがとう。スッキリしたよ。ちょっと自分なりに調べてみようと思う」

「それはいいね。困ったことがあったら、なんでも言ってね。私、力になるよー」

前園さんへの印象が変わったことと、詳しくは話せないことへの若干の申し訳なさが相まって、少しぎこちない声が出た。

「また相談させてもらうよ。ありがとう」

前園さんはパッと明るい表情を見せると、また別の話に入っていった。カフェでいろんな話をする間、今度は食事に行こうと誘われたので、それはやんわり逃げた。

アイスコーヒーが底をつきそうになっている。これはチャンスだと思い、残りを飲み干して会計を済ませ、店を出た。

次回更新は2月10日(火)、11時の予定です。

 

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