「これは大きな戦争への前ぶれなのか?…。今は確かに陸軍が主戦の戦火だ。だけどこれが大陸奥地に進軍激しい戦争となれば、必ずや陸海は合同になり、一層厳しい列強国の締めつけをくらう事になる。果して勝利の目算はあるのだろうか?…。やがて俊介も戦地に出征する日がやって来るのであろうか…」

戦地の兵隊さんの武運長久を祈りながらも、いつの間にか職業軍人である筈の我が子の身の上を案ずる市井の人の親になっていたのである。

そして中国戦線は短期決戦の勝利とはならず、一年半を経た十四年の正月を迎えても、持久戦を強要された膠着状態にあった。

その正月二日、御昼前の事であった。

俊介は一人の娘子を伴って二年振りに休暇帰宅したのである。濃紺の外套に身を包んだ俊介の凛々しい軍服姿に、又二郎夫婦は改めて目を見張った。

同じ濃紺のオーバーコートで装い、三歩下って後に控えて「お初に…‥」と深々と腰を折って挨拶した娘子に、異性として醸し出す甘い雰囲気を感じ取った。

夫婦は「もしや…結婚相手?」と直感したのだった。由紀の父親清右衛門も昨年秋以降体調不良で寝込みがちであったが、「じいちゃん子」の俊介が帰って来たという知らせに、離れの隠居所から夫婦揃って凍てつく厳しい寒さをものともせず、出迎えにやって来た。

正月二日に「休暇帰宅」すると連絡は受けていたが、彼女同伴だとは一言も聞いていなかった。しかし俊介の思わぬ行動にも、客商売に明け暮れてきた夫婦には、何のたじろぎも無かった。

むしろその成長の証の勇姿と、単刀直入に異性を伴って帰って来てくれた事に、満面笑みであったのだ。

 

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