さすがにムッとして言葉を継げずに黙っていると、
「お願い、ほんとに困ってるんだよ」
「私、明日も仕事なんです。明日の準備だってあるし、これから洗濯物だって干さないと」
「悪いと思うけど、ほんの三分で終わるから」
そういうと、不知火さんはこっちの意思を確認することもなく、手すりに寄りかかりながら一段ずつ下り始めた。仕方なく、ドアを閉めて後ろをついて行った。
「玄関の電気が消えかかってたのが、今日、すっかり消えてしまって。リビングの明かりだけだとあたしの視力じゃチェーンもろくにかけられなくてね。この前息子にお願いしたんだけど、脚立と蛍光灯だけ持ってきて、替えるの忘れて帰っちまったんだよ。あのドジ」
玄関に入ると、大所帯の家なのかと見まがうぐらい、靴やつっかけがごちゃごちゃと置かれている。リビングに向かうまでの左右のスペースには棚があり、これまたレジ袋だのタマネギだの、いろいろな物がひしめき合って棚に押し込まれている。
靴を脇にざざっと寄せて、立てかけてあった脚立を組み立てると、上って不知火さんから蛍光灯を受け取った。取り付けてスイッチを入れると、なんてことなく灯りがぱーっと広がった。
「助かったよ」
古い蛍光灯を不知火さんに手渡すと、それじゃ、おやすみなさい、と言って素早くドアを出た。後を追って、不知火さんがすまないねえ、と言って出てきた。
薄暗い蛍光灯の照らす階段を上っていると、さっき不知火さんが階段をよろよろと降りる姿が浮かんで、ほんの少しだけ、胸の奥がちくりとした。
不知火さん階段を上るのだって、大変なのだろう。きっと自分もいつかああなることだってあるに違いない。言い聞かせてリビングの戸を閉めると、カーディガンを脱いで、布団に潜り込んだ。
次回更新は2月8日(日)、11時の予定です。
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