そんな心楽しい言葉で始まった料理が、いつも何だか分からない物か、真黒な何かで終わる。
何度裏切られてもめげない太平と、何度失敗しても懲りないお凜様。
「太平、この次はちゃんとしましょうね」
「はい、ごめんなさい」
最後には太平と、何かの入った鍋か、真黒な何かが残される。
「おやまあ」百合が茶椀から一口を飲んで声を上げた。
生姜を煮た湯に、少しの味噌と刻んだ青紫蘇。
たったそれだけなのに深い味わいがある。
「お砂糖……?」
口の中に優しい甘さが残っているが、砂糖や味醂の甘さとは違っている。
「水飴……。まさか、蜂蜜ですか?」
「はい、蜂蜜です」
太平が嬉しそうに、短い竹筒をかざして見せる。
春になれば、一面が黄色に染まる菜の花畑には蜜蜂が群舞する。そんな蜂の一群れが、安楽家の庭の片隅に忘れられていた桶に巣を作った。
そして太平がその巣を見守り、工夫もして三つの巣箱となり(それ以上増やす事はお凜様より禁じられた)毎年、充分の蜜をもたらしてくれている。
「ええ、砂糖ではこうはいきません」
太平の顔がへへへの字となっている。
砂糖と蜂蜜の違いに気づいてくれる人は滅多にいないのだ。
「私ですね、子供の頃に一度だけ風邪をひいた事があるんです」
太平が得意気に胸を張る。