「お前ら、なんだ。悠真の前で不純異性交遊……不適切な話をするな」と、とんちんかんに割り込む。
「何を妄想をたくましくしているの。企業買収の話だよ。前は敵対的な買収と言っていたのを、最近は同意なき買収と言うようになったんだ」と諭が胖を諭す。
塚田が勤める芝浦光学機械を巡る買収合戦では、諭の法律事務所が買収側に付いていた。トリケラトプスのように、食われる側の悲哀が滲み出る。ティラノに襲われたトリケラの巨体が三分割され、しいたげられる姿が諭の脳裏に浮かぶ。
胖のビジネス新報も地味なMBOでカーブアウト、つまり親会社から事業の切り離しの憂き目に遭った。陰謀と罠が渦巻く、泥船の上での泥仕合。致命傷は蜂の一刺しだった。色っぽい女性役員の繰り出す針は猛毒だ。
かくして、胖は週に一、二本コラムを書きながら、高校野球部の同期が理事を務める女子大などで教壇に立つ。学生と話していると、なんだか若返った気分を味わう。
「ポートランド(アメリカ北西部オレゴン州)に行ったとき、諭の先輩弁護士に聞いた話が講義におおいに役立った。大統領選にまつわる訴訟やフェイクニュース(偽情報)、メディアの報道のからくりを学生に披露した。聞いて目から鱗が落ちた」と胖はよく言っている。
諭は、球友の塚田が担当している芝浦光学機械の祖業である光学事業がカーブアウトで会社から切り離されるのを懸念している。
塚田は同じく球友の角田啓太が似たような境遇に四苦八苦している姿を慮(おもんぱか)る。「あの雀鬼(じゃんき)、角田の浪華電産も大変だな。せっかく老舗の家電メーカーで活躍していたのに経営が傾いて、とうとう台湾の会社に買収されたって聞いた。彼、どうしている?」
「家電の子会社に出向するらしい。いずれ起業したいそうだ」
「被買収企業の辛酸を嘗め尽くしたんだな。ここのところ野球部の同期会にも顔を出していない」