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第1章 二つの決勝戦〜WBCと甲子園 二〇二三年

八月二十三日、夏の甲子園決勝戦

二か月後に開かれた秋の国体で慶応高校は仙台育英に0対11と完膚なきまでに返り討ちにあう。光もあれば陰もあるのが好敵手たる由縁だ。

「先頭打者ホームランは圧巻だった。あれで試合の流れは決まったね」。八月二十三日、甲子園からの帰りの新幹線で諭は塚田に水を向ける。

缶ビールを手に中華まんじゅうを頬張っていた塚田も「両投手はよく投げた。優勝大本命の仙台育英を二点に抑えたんだもんな」とご満悦だ。

仙台育英にとって慶応の大応援団はまさに四面楚歌を聞いた項羽の心境だったかもしれない。そのころから「大音響の応援が影響して仙台育英は十分に実力が発揮できなかった」などと批判や疑問の声が沸き起こる一方、先制弾のヒーローが「美白王子」とネットを賑わし始めた。

甲子園から帰京する新幹線は名古屋を通過した。電卓とメモ帳を手に何やら計算していた胖が独白する。

「盆と正月が一緒に来たようだな。慶応高校優勝は百七年ぶりの快挙だ。前回は一九一六年、第一次世界大戦のさなかだな。WBCで世界一になるのは十四年ぶりだ。惑星直列みたいに両方起きるのは一四五六年に一度。祖父と父、子が一緒に観たというのは、世界八十億人のなかでもほとんどおるまい。宇宙一ラッキーな三世代と言っていい」

おやじったら、もう、不適切極まりない、論理性のかけらもない言いぐさだな。細かくてつまらない御託を並べるいつもの悪い癖だよ。独(ひと)りよがり、唯我独尊(ゆいがどくそん)、デリカシー・ゼロ。いくつになっても健在だ――諭のあんぐり開いた口は塞がらない。

それでもそんな感情はおくびにも出さず、「悠真は宇宙一ハッピーな三歳児であることは間違いないかもね」と受け流しておく。新幹線の車中、その視線の先には唯我独尊というよりも泰然自若と絵を描き続けている悠真がいた。

「ティラノサウルスは肉食、トリケラトプスは草食なんだよ」。宇宙一エキサイティングな幼児が恐竜の絵を祖父に説明している。

「ほー、そうか。弱肉強食、いつの世も弱者は強いものの餌食になるんだな。人間の社会も」と調子を合わせていたつもりの胖の耳に、「例の同意なき、の一件だな」と思わせぶりな言葉が聞こえてくる。