「会社にも、一日、一年、百年のスケールが同時に流れているけれど。いまは日次・月次に四半期成果、前年比ばっかり気にしているような感じがする。せいぜい、社長任期と中期計画ぐらい」
「そう。刹那的に考えるよう、アタマが躾けられている」アッちゃんもゆっくり頷き、内省する。
「アッサリ、カンタンにとらえてはいけないのね」
棟梁は、若いひとたちが、それぞれ自分事に話を解釈しているのが興味深かった。
――初対面の若者に妙な講釈をたれてしまった。いまどき迷惑かな。でも、私は話をしたいんだ。
私の仕事は、なにより宮大工を絶やさないこと。これまで千年受け継いできたものを、これからの千年にきちんと受け渡すことだ。ただ、なかにはまったく異質な感受者がいてもいいのではないか。
すでにこの現実世界には、寺社を建立できるように切り出せる千年檜が、ほぼ、ない。立派な木が育つ、土もない。バーチャルな離宮? それも継承のひとつかもしれない。
私が一番恐れるべきは、宮大工たちの心と身体に沁み込んだ、単なる道具づかいだけではない〈知〉が途絶えてしまうことだ。
YOさんが、棟梁のグラスに両手でビールを注ぎ、のどを潤してもらう。
「話してもいいですか? 宮大工の伝えごとですが。東西南北には、意味があります。」
——木を活かし、建物を活かすには、〈四神相応〉という良い地相が必要だと言われています。
東に青龍(清流)、西に白虎(広い道)、南に朱雀(沼沢)、北が玄武(山)。その地相にはまらない場合は、南に桐、東に柳、北に楡、西に梅を植えよと、教え継がれています。
また、山の南側で育った木は、柱に割った時にも、同じように南側を向けて建てろとも伝えられていましてね。年輪やフシのできかた、木の柔らかさや固さが、育った向きによってそれぞれ違うんですな。
自然に在ったものは自然に合うように使わせていただきます。だから、樹齢千年の檜が、柱になってからも千年生きる。それもまた、時間です。
私らは、パターンというより、建物で自然の摂理を再構築しているのかもしれません。そのとき、方角は、場を拵える際の根本思想なんです。
「……勉強が足りませんでした」シュウトくんは、素直に棟梁の言葉をリスペクトした。
次回更新は2月4日(水)、11時の予定です。
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