【前回記事を読む】「これは桂離宮オールスター・パーツだな!」棟梁が驚いた“解体と再編集”で生まれた仮想世界とは

第四章 過去にひそむ未来

「すいません。僕、無作法なんです」

「作法は別として、こういう拵えようもあるんだな」棟梁は目を細めながら画面をくくる。

「こんな切ったり貼ったりが、できるんだ」YOさんが、身を乗り出して画面を覗く。

「あんたのとこも、現場をスキャンして、そこにカタログの画像を貼り付けて、お客さんに提案するといいよ」

棟梁は、黙ってシュウト作の桂離宮茶屋を眺め続ける。常連の5人は、検定試験でも受けているような気分になった。

しばらくして、画像をくくる、節くれの指が止まった。

「時間と方角、東西南北はどうしますか?」

シュウトくんが、きょとんと目を見開き、息を止める。

「光は動かすつもりでしたが、方角まではツメて考えていませんでした」

「私のあつかう寺社と離宮は志向が違いますし、どこまで現実を再現するのかも、考えようですが。

もし、ここに世界を設定するならば、時間も必要でしょう。お日様もお月様も、東から出て西へ沈みますが、季節によって、出入りの位置や、高さが変わります。窓や軒先から入る光もうつろいます。

それが、草木や人間の感じる〈時〉の変化です。生き物の盛衰や、四季の移り変わりです」

時間には、種類があります。たとえば、梅の木がありますね。年に一時期、満開の時だけ花見をする愉しみもいいでしょう。

一方で、その木がつぼみを膨らませ、花が咲き、散り、緑の新芽が出る。初夏には実をつけ、夏には木陰をつくり、秋には葉を落とす。ピークだけでなく流れを観るのも、〈時〉の味わいです。

それから、梅の木が生まれてから朽ちるまでの百年も、また別の時間の感じ方です。伝統建築には、現代の人間が忘れているような、幾重もの時間が流れているんです。

「桜と紅葉の季節が一緒に来たら、催事としては都合がいいかもしれませんが、なんだか煩わしいでしょう。一日一日、わずかにうつろう積み重ねが時間を醸し出す。それが用の美を超えた、自然の美だと思います」

YOさんも、お弟子さんになった気持ちで聴き入る。

「たしかに、そこが同じ季節の同じ時間に設定されていたら、飽きるかもしれないですね。そうなるとモデルハウスの中みたいになるか」

あのアロハなお姉さん、ハワイアンなリビングに三カ月で飽きないといいが。

シュウトくんは、匠の話にひそむヒントをものにしようとしている。

「そうか。バーチャルな空間に物足りないのは、自然観だけじゃなくて、時間の重なりか」

「考えてみれば、会社もそうだよね」ジョージが連想する。