四 校長、一番槍に立つ
早速次の日、二階で大きな声がした。
空き時間だった私と若手の先生数人が「それっ」と駆け上がると、興奮した生徒の一人と数人の生徒がケンカ状態で…それを制止する校長の姿があった。
「校長に先を越された」
次の日も同じであった。音や声がすると、我々職員よりも早く現場へ急行し一番槍の如く生徒指導に当たる校長の姿があった。
まさに率先垂範、源義経の如くで、有言実行の人であった。校長が一番槍を取れるのは、単にそれを心がけているだけでない理由があった。
それについては、後に述べよう。
「この校長は本気だ! 次回は私が一番槍を目指すぞ!!」
また、こんなこともあった。新学期を迎え、最初の大きなイベントである体育大会の全体練習の時、グラウンドに出た私は目を疑った。
「体操服に着替えて全員整列しているだろうな」
と思いきや、そうしている生徒がほとんどであるが、何より目立つのはグラウンド脇にあるトイレの屋根の上に数人、その向こうに見える体育館の屋根にも多数の男子生徒が学生服のまま上がって遊んでいるのだ。
「落ちたら大けがもしくは…」
なんて心配はご無用。彼らは絶対に落ちるようなことはしないので。
フェンス際に着替えもしない生徒(元気があるが見学者らしい)が、これまた数人ゴロゴロしている。
「これで体育大会の練習できるのか?」
先生方も揃い、屋根の上にいた生徒も降りてきて、
「さあ全体練習だ」
校長が朝礼台に上がって挨拶。集合した全校生徒に向かって、いきなり怒鳴りあげる校長。
二年生の男子生徒の一人がゴソゴソし、校長の話なんか聞こうともしない。
朝礼台から飛び降りた校長は、その男子生徒に向かってド迫力で、
「ええ加減にせんか!」
と怒鳴りあげた。が、男子生徒も負けずに反抗的な態度を続ける。そのまま男子生徒を引きずり出す校長。
ザワザワしていた生徒も静まりかえった。生徒だけでなく我々教職員も心穏やかでなく…。校長の本気度だけが心に突き刺さった。
しかし、そんな我々の前には相変わらずの状態が繰り広げられた。
特に消火栓へのいたずらは、消火剤が散りまくり、ホースも廊下に散乱し、片付けるために相当な労力と時間を必要とした。
加えて、火災報知器は一度鳴り出すと復旧に時間がかかり、延々と音が鳴り響いた。授業などまともにできるわけがない。三年生のある女番長風の生徒たちでさえ、
「一年生か。あいつらいい加減にしてほしいよね」と言うくらいであった。
この事案で校長がとった方法は…火災報知器のベルを鳴らす犯人が恐らく○○と予想される中、ある日校長はその男子生徒を校長室に呼び入れ、
次のような話をしたそうである。
「毎日のようにベルを鳴らすのは一体誰なんじゃろうか? ワシも毎日消防署や市教委へ書類などを出さないといけんけえ、しんどいんじゃ。
お前、誰か知っとるんじゃないんか? 知っとるんなら、そいつに『しんどいけえ、やめてくれ』と校長が頼んでると言ってくれんか? お前の言うことなら聞いてくれるんじゃないか?」
二人のやり取りにどんな条件が交わされたかは知る由もなかったが…、事態はぴたりと収束した。
その男子生徒からも信頼を勝ち取り、彼を味方に引き入れた校長の指導力の勝利(?)。