この手紙は「出さなかったラブレター」と名付けて、大切な思い出として今も手元においてあるが、読み返してみると汗顔(かんがん)の至り。青くさい文章で、おそらくこれを手渡していたら彼女からOKの返事をもらえなかっただろう。

どのくらいの時間が経っただろうか。向かい合って彼女の肩に両手をかけて、彼女が振りほどこうとすると力を入れて繋ぎ止めた(一瞬「押してもダメなら、引いてみな」というあの時の仁戸田教授のセリフが甦った)。弱いながら雨は降り続いていた。

やがて観念したように、彼女が告げた。最後に発した一言は「負けたわ」だった。

エピローグ

昭和四十六年(一九七一年)アメリカの占領下にあった沖縄を日本返還前に訪れてみたいという気持ちに駆られて渡航した。当時は同じ日本なのにパスポートに代わる「身分証明書」が必要だった。

いつだったか何かの雑誌で「女神降臨の地」と耳にしていた本島南部の百名(ひゃくな)ビーチを訪れた。今まで経験したことのない海の青さに驚き、ボートを漕ぎだしてサンゴに囲まれた遠浅の海をしばらく行くと、岩礁に行き当たる。ボートを降りてみると深さは膝上ほどしかない。

そこに鮮やかなブルーの小さな熱帯魚が群れをなして回遊していた。なに、ここは。一人で来るところじゃないよ。今度来るときは……と思った。

 

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