4 初めてのお見合い
職場の組合活動で指導を受けていたTさんから、紹介したい人がいるから一度会ってみないかと誘われて、銀座の三愛ビルで、鹿児島出身の歌手のレコード発売を記念して開かれたパーティーでその人と会うことになった。
私は真面目だけが取り柄で、平凡で話題もなく、退屈な人間である。そんな私とでも、彼女は紹介者の手前何回か会ってくれた。
本当のところ彼女は断りを入れるつもりになっていたようだ。“朴訥(ぼくとつ)”と言えば聞こえがいいが、単なる世間知らず。女性との付き合いも経験がない。
あとで聞いた話だが他の男性からもプロポーズをされていたが、彼らは接し方がスマートで、逆にそれがいま一つ踏ん切りがつかなかった要因という。私とのことは、相手を気遣ってか直接に返答するにはためらいがあって、紹介者を通じて断ろうと心に決めていたようである。
その辺の事情は露知らず、一方的に押しまくったのが功を奏したのだろうか。新宿の喫茶店で落ち合って、話の成り行きで結婚を前提にお付き合い願いたいと申し入れた。彼女は返答に困って黙り込んでしまった。
長い沈黙が続いて、周りの目も気になりだしてきた。私は埒が明かないと思って、伝票を手にして会計を済ませ店を出た。
それから小雨けぶる新宿中央公園に場所を移して、彼女の返事を待つことになった。その時自分の心情を綴った手紙を手渡そうと持っていたのだが、成り行き上その機会を失してしまった。