しかし伸枝の話を聞いたことで、この思いは胸の中を黒々と占領するようになってしまったのである。疑いを持ち始めたら、もはやきりがない。
(このままだと、安心して病院にいられなくなる! だからと言って、他に転院していいものかもわからない……)
そこで思い当たったのが、倉嶋順子の存在だった。最近になって北陸から隣町のT市に転居した、と葉書をくれた順子が、看護学科の卒業生だったことを思い出したのだ。結婚以来、年賀状のやりとりくらいで縁遠くなっていた順子には、透の事故も知らせていなかった。順子にだけではない。
まさ子は事故以来、透の現状を文字にして書いたことが一度もなかった。文字にすれば現実になってしまう。現実を受け入れたくない気持ちが、ずっとまさ子を孤立無縁にしていたのだ。
だから、一度書き出せば、思いは次から次へと噴き出した。理不尽な事故に巻き込まれたこと、九死に一生を得たこと、すでに一年以上入院していること、退院の目処が全く立たないこと、転院したほうがいいか迷っていること……。今の気持ちを素直に手紙に書きながら、まさ子は涙を流していた。
手紙を投函して数日。順子から返事が届いた。
「お手紙ありがとう。すぐに電話を、と思ったけど、病院にいることが多いと思い、手紙にしました。よく知らせてくれたね。とにかく一度お見舞いに行きます。水曜の午後、行きますね」
***
「まーちゃん、久しぶり! 何年ぶり?」
二十年ぶりに会う倉嶋順子は、恰幅のいい中年女性になっていた。旅の途中で出会った時は、小顔にショートカット、ボーイッシュな出(い)で立(た)ちで細身のジーンズがよく似合い、モデルのようにスタイルが良かった。が、今その面影はない。
「順ちゃん、きてくれてありがとう」
「まーちゃんは全然変わらないね。私は変わったでしょ? あの頃より、体重五割増し よ!」
「五割増でその体型は、逆にすごいと思う。何? 昔体重四十キロ自慢?」