「あら、透くんのママ?」

出てきたのは、吉田達也の母・友美である。

「うちも今日からここなの! 良かったわー。透くんママなら気兼ねないし。カーテン開けちゃうわね!」

友美は、まだ三十代。たまに訓練室で達也に付き添っているところに出くわす。髪の毛を金髪に染め、化粧も濃い友美は、訓練室では目立つ存在だった。

よく笑い、PTたちに気軽に声をかけ、自分は十八歳の時に達也を産んだ「デキ婚」だの、今はバツイチだのと皆の前で話してしまうような、あっけらかんとした性格は、あけすけだが毒がなく憎めない。

悪い人ではないが、ずけずけした物の言い方に、まさ子は時々ついていけないことがあった。

「ねえねえ、アイス食べません? さっき買ってきたの。達也の分だけど、また買ってくるから。息子二人は訓練中。私たち、ちょっと羽伸ばしましょうよ。二人部屋、冷蔵庫が部屋にあるから楽よねー」

友美はいきなりお喋り全開だ。まさ子は、もし充と同部屋だったらどうだったかと想像した。あの母親とは、きっと一緒にアイスを食べることなどないだろう。二人部屋は、相手がどんな人かで全然雰囲気が違ってくることを痛感した。

アイスの蓋を開けながら、友美はまさ子に尋ねた。

「ねえ、透くんママ、ここに移る前に聞かれた? 二人部屋か、八人部屋かって」

「ええ。私は最初に入れられた八人部屋にいいイメージがなかったから、金銭的にはかなり大変だけど、二人部屋にしたの」

「正解! 正解よ、その考え。あの老人病棟は、この病院で一番古い建物なんですって」

「老人病棟?……透は老人じゃないけど。年寄りばかりがいるってこと?」

すると、友美は顔を曇らせた。

「……透くんママは知らないんだ……」

そして、まさ子に顔を寄せて声をひそめた。

「あそこはかなりヤバそうなの」

「ヤバいって?」

「噂なんだけど。あの〈老人病棟〉に行った人は、二度と帰ってこれない、普通でない死に方をするって」

「え?」

次回更新は1月18日(日)、14時の予定です。

 

👉『トオル』連載記事一覧はこちら