「よく集まってくれた」帝釈天が切り出した。
「この世を正しき道へ導く資格者として、そなたたちを選んだ。これからそなたたちがなすべきことを伝える。しかと心得、己の使命を全うせよ」
帝釈天の言葉を受け、空海は居住まいを正した。「以前からこの世には、神々の計画によって、試験的に創造された人間が送り込まれてきた。その人々の御魂(みたま)は不完全であった。
その後、幾度かの試行錯誤を経て送り込まれたのが、神の遺伝子を組み込むことで完全体に近づいた倭人じゃ。倭人は神々の導きに沿って自然と調和し、この世にて時間をかけて進化する必要があった。
しかし、我の些細な手違いにより、この世に邪(じゃ)が蔓延してしまった。邪に支配された者たちが神々を妨げたため、人々の進化の方向が徐々にずれてきておる。
さらに、この世の子孫が繁栄するにつれて、神から受け継いだ遺伝子は薄まっていき、人々の心に入り込んだ邪が次第に大きく膨らんでいった。神々だけでは邪を抑えることが難しくなってしまったゆえ、信頼の置けるそなたらを集めたというわけじゃ」
「帝釈天さま、ひとつお伺いいたします。邪とはどのようなものでしょうか」桓武天皇が問うた。
「邪は目に見えぬ。人々の心に巣食い、この世に混乱をもたらすもの。天災も戦乱も飢饉も疫病も、沙門が五戒を破るのも、すべては邪の作用なのじゃ」
「なんと」桓武天皇は目を見張った。
「そなたら人間には信じられぬかもしれぬ」帝釈天は嘆息した。
「我らは、千二百年周期で自らが創造した世界を巡回しておる。そのときの状況、つまりは邪がどれほど蔓延しているかにより、その世界を完全に破壊するか、あるいは、一度破壊して新たに創造、再生するかを決める。
創造、破壊、再生には、途方もない労力が必要であるゆえ、できることなら我らは手を加えたくないと思っておる。
そこで神仏の代わりにこの世を治める役割を果たすのが、平家の一族である。平家の血筋は神々の遺伝子がもっとも色濃いため、この時代に国を治める中心となったのは必然じゃ」桓武天皇は誇らしげにうなずいている。帝釈天は話を続けた。
「世に蔓延した邪なるものを払いのけるためには、我らの遺伝子を受け継ぐ志の高いそなたたちの力が必要なのじゃ。どうか力を貸してくれぬか」
「御意にございます」桓武天皇は深々と頭を下げた。
「右に同じく」空海も深謝した。一風荒唐無稽に聞こえるが、帝釈天の言葉が真実であることは、直観で理解できた。