腹や胸に深い傷を負った者は見放された
複雑骨折を伴うような手足の大きな創傷でも、当時の軍医たちは切断手術によって生命は守ることができたかも知れません。
しかし、腹部が大きく切り裂かれて腸がはみ出している兵士はもとより、槍に突かれた場合のように傷口は小さいとはいえ腹腔内まで達する深い創傷を負った者などに対しては、手の施しようがありませんでした。
健康な人の腹腔や胸腔など身体内部は、白血球などの免疫機構の働きもあって、ほぼ無菌状態に保たれています。
そのため病原体の侵入に対する抵抗力は極めて弱く、外部から体腔に達する創により汚染された場合には、ただちに腹膜炎などの激烈な炎症が生じます。
これは、抗生物質などによる化学療法の登場以前には、ほとんどの場合に致命的な結果となっていました。つまり、「腹をやられたら助からない」が常識だったのです。
体腔内に不用意に手を触れることは殺人行為に相当すると考えられ、制腐法(感染防御法)が普及するまでは、開腹手術は多くの医師にとって絶対的な禁忌でした。
現代なら研修医レベルの外科医でも手術ができる虫垂炎でも、当時は「死病」であり、多くの人が生命を失っています。
現代では広く実施されている帝王切開による分娩も、わずか百数十年前までは母親の生命と引き換えに胎児を救う究極の選択でした。
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