【前回記事を読む】「魔女汁を飲ませてくれる?」「誰から聞きました?」サービスでついてきたのはまさかの…
二.虫首(コオロギ)
魔女汁で冴えわたった脳ミソに新たな刺激が加わる。記憶の世界が自立したような錯覚を覚えた。同時に魔女玉に異変が生じる。球体の中にホログラムのような映像が浮き上がったのである。しかも魔女玉の表面は微妙に振動しながら音も発した。
「お客様。あれに見覚えがありますか?」
イチコはしばし呆然と眺めていた。
「黄色いTシャツに黒のショートパンツ。あれは十歳になった頃の私だわ。誰がどうやって撮影したの?」
「説明は難しいです。あなたの記憶に関係する空間が、そっくりそのまま再現されているのです」
「だからどうやって?」
「それが魔女汁の魔力とでもいいますか、魔女汁には異次元空間を繋ぐ力が秘められています。記憶といっても限りなくあります。ではどの記憶の扉をチョイスするか、その選択スイッチ的な役割をするのがこの店の虫料理です。記憶が選択されたら特殊な脳波が発信されて、過去の空間と魔女玉が連結します。
過去というのは異次元空間として存在しているのです。その空間に存在する虫たちの情報によって魔女玉に映像が映し出されます。つまりあなたがいま見ているのは、過去のあなたの周辺にいたハエやゴキブリ、クモ、ダニ、シラミ等々、あらゆる虫たちからの情報を集計して再現されたものなんです」
イチコは理屈を聞くのが面倒臭いのか、顔をしかめた。
「そんな話を聞いたってウソか本当か分からないわ。でも少なくともこの映像は私の記憶とよく合致しているようね」
「我々は学者じゃありませんから、できるだけ理屈抜きを心がけます。ところでこの場所はデパートですか」
「そうよ」
「きっとお買い物」
「いいえ。万引きよ」