「いーですよ。城戸さんのためならポーターでもリポーターでも、何でもやりますよ」

そこへ崎野が割って入った。

「坂田さん、リポーターでも何でも、はないでしょ」

「ごめんごめん、そういう意味じゃなくて……」

崎野のむくれたふりを真に受けて慌てる坂田を見て、瞳が言った。

「お兄ちゃん、また汗かいてるよ」

「瞳ちゃん、勘弁してよ」

弱りきって汗をふく坂田の姿が、全員の笑いを誘った。

一行は香織に見送られ、長崎へと飛び立った。

長崎空港からタクシーを飛ばし、長崎港に降り立つと、すでに高速艇の準備が整っていた。荷物を積み込み、船室へ入ろうとする四人に向かって、船長はこう言った。

「天気が下り坂やけん、外海に出ると波が荒くなるかもしれん。注意しとってくださいよ。気分が悪うなったら、これに……」

指さした先には、大型の洗面器が三個、無造作に置いてあった。「こ、これですか」と坂田はおどけた調子で驚いてみせた。だが、港から外海に出て一時間もしないうちに、真っ先にそれを抱え込んだのは坂田だった。

長崎港から南西に約百六十キロの東シナ海。三時間余りの船旅を終え、洗面器が満杯になったころ、男女群島が見えてきた。北から男島(おしま)、クロキ島、中の島、ハナグリ島、そして女島(めしま)の五島が並ぶ。女島の東側には、高さ二百メートルに達する柱状節理の崖がそそり立ち、カツオドリが青い空を舞いながら船を誘う。

船酔いでぐったりしていた瞳が叫んだ。

「あれ、ひょっとしてイルカじゃない?」

船長が船の速度を緩め、しばらく併走する。

「まるで南の楽園だね、ここは」

城戸はすっかりバケーション気分に浸っていた。

 

👉『BLUE EYE』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】男たちの群れの中、無抵抗に、人形のように揺られる少女の脚を見ていた。あの日救えなかった彼女と妹を同一視するように…

【注目記事】やはり妻はシた側だった?…死に際に発した言葉は素性の知れない「テンチョウ」