【前回の記事を読む】足の筋肉に力を入れると、吸血中の蚊は皮膚から離れられない。血を吸ってまるまる太った蚊。仕留めようと手を出すと…
episode1 異変
翌朝、城戸は羽田空港へ向かった。テレビ局のクルーや娘と合流し、午前九時過ぎの長崎行きに搭乗することにしていた。待ち合わせ場所の出発ゲートは、連休前とあって込み合っている。
誰か来てるかな、と辺りを見渡していると、キャップにTシャツ、ジーンズ姿の若い女性が手を振りながら駆け寄ってきた。リポーターの崎野真美だ。社会人五年目のスレンダーな美人系だが、外見に似合わず勝気な性格で、体当たりのリポートぶりがこのところ好評だった。
「城戸さーん。もう来ないかと思いましたよ」
「だって、まだ時間じゃないだろ。お前、相変わらず元気だな」
「どうせ元気だけが取り柄ですからね。でも、今回はちょっと緊張しますね。無人島だし。怪獣とかいたらどうします? キングコングとかゴジラとか」
「お、いいねえ。どっちも名作だからな。あ、それでお前がヒロインになるっていうんだろ。残念でした。動物は鳥ぐらいしかいないんだよ」
「オ、オ、ミ、ズ、ナ、ギ、ドリでしょ。ちゃんと調べましたよ」
「そ、オオミズナギドリ。ほかにも、人間が捨てて野性化した猫はいるらしいけど。心配なのは天気だな」
「でも、崩れるのは夜だから大丈夫ですよ
他愛のない会話を交わしていると、城戸はぽんぽん、と背中を叩かれた。
「パパ、来たよ」
瞳が立っていた。
傍らには香織がいる。彼女に会うのは三カ月ぶりだ。もともと大喧嘩して別れたわけではない。ひとことで言えば破局の原因はすれ違いの生活にあった。仕事にのめり込み、勝手放題だった城戸に愛想をつかした香織が、娘を連れて家を出たのだ。