愛情が残っていないといえば嘘になるが、すがりつく醜態はさらしたくなかった。そんな内心を悟られたくないという妙な意地もあり、彼女に会うとことさら平静を装ってしまう。
「久しぶり。研究所の方はどう?」と城戸は声をかけた。
「コロナ禍も落ち着いたし、仕事は順調よ。それより、本当に危なくないの?」
香織は、城戸の大雑把な性格を知っているだけに、無人島に瞳を連れて行くことが不安でならない、という顔をしている。黙っていると、いろいろ追及されそうだな、と思った城戸は「分かってる。大丈夫だよ」とだけ答えて、隣にぽかんと立っていたリポーターの崎野を紹介した。
「いつも城戸先輩にはお世話になってます」
「こちらこそ、剛が」と言いかけて、香織は「城戸が」と言い直し「娘をよろしくお願いします」とあいさつを済ませた。
と、そこへ大きな声が聞こえてきた。
「あー、すいませーん、遅れちゃってえー」
ちょっと太めの男が、両手に大きな旅行用カバンを抱え、息を切らせて走ってきた。カメラマンの坂田祥平だ。愛想笑いを浮かべた顔には、玉の汗をかいている。
「テントが重くって」
「テントより体が重いんじゃないか」と城戸がからかうと、坂田は「またあ、城戸さんはほんとに口が悪いですねー。これでもダイエットしてるんですから。女の子の前でやめてくださいよぉ」と口をとがらせる真似をした。動作はちょっとドンくさいが、こういうお茶目なところが坂田のいいところだった。
香織の不安そうな顔を見て、城戸はこの場を盛り上げようと、また突っ込んだ。「まだ汗のかき方が足りないんじゃないか。俺の荷物も持ってもらおうかな」