母の口癖の中に隠されていた去りゆく者の愛

新築の家を私に買ってあげたい。娘である私の名義で買えば、主人とうまくいかなくても、家を追い出されなくて済むというのが、母の口癖でした。

でも実際は、暮らしていくのが精一杯だったのでしょう。そのようなことは実現しませんでした。逆に、私は母を新築の家に住まわせてやりたくて、同居を決めるまで貯金に勤(いそ)しみました。考えていることは違っても、お互いに親は子を、子は親を幸せにしたかった、これは事実です。

お互いを思い合っていたにもかかわらず、結局うまくいきませんでした。

昔は家族の人間関係も今と違い、秘すれば花の部分があったように思います。言葉にしなくても親は自分の思いが、当然子どもに伝わっていると解釈し、親は親なりの判断で動くのです。

しかし、親と子どもが同居をしなくなった今、なかなか言葉にしなくても通じることが少なくなってきたようにも思います。

思いだけではうまくいきません。だからこそ、しっかりと親子で話し合うことが大切です。

独りよがりの幸せでは、相手は幸せにならないのです。たとえば、最期は自宅で迎えたいし、迷惑をかけたくないから自分はひとりで暮らすという高齢者を多く見受けます。しかし、そのような高齢者を狙った犯罪はなくなることはありませんし、家族の知らないところで認知症になってしまうという危険性も孕(はら)んでいます。

子どものことを思っての行為なのかもしれませんが、実際は子どもに大きな心配や負担を背負わせることになります。

次回更新は1月6日(火)、18時の予定です。

 

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