「伝統建築は、後継者さんがいなくて大変らしいですね」

「いまは各地に、次の世代を育てる場ができはじめています。まぁ、どの時代でも、100人に教えて、100人全員が宮大工にたどりつけるわけではありません。千何百年か受け継がれてきたことを絶やさず、ひとりでも多くに伝えておければと思ってますわ。私はいま、機械にも教えています」

棟梁はYOさんに顔を向ける。

「大学の先生や企業の技術者が、私の身体にシールやらコードやら貼り付けてな。槍ガンナを使うところをカメラで撮るんだ。そうすると、指やの腕やの、チカラ加減がわかるらしい」

クマくん、ジョージ、シュウトくんが、それぞれうなずく。

「センシング*1か」「力触覚センサー*2」「工業製品だけじゃないんだ」

棟梁は出張用のキャリーケースから、最新のパッドを取り出す。

「機械から、私らが教えてもらうこともあります」

パネルには、どこかのお寺の図面が呼び出された。棟梁がパッドを指で操作すると、図面が3Dで動く。

「むかしはこうした測量に、ひと月以上かかっていたんです。いまは、半日かな」

3Dスキャンによる点群測量*3。まわりのみんなは、伝統建築の匠が、最新テクノロジーを躊躇なく取り込んでいる様子に、ちょっと驚いていた。

「そうは言っても、屋根裏をはいずり回って、自分の目で見て、手で触ってみないとわからないことも、相変わらず多いですわ。わははは」

棟梁は、実にうまそうにビールを飲む。


*1 センシング センサーを利用して物理量や音・光・圧力・温度などを計測・判別すること

*2 力触感センサー 力の入れ方や圧力を記録して再現するセンシング技術

*3 3Dスキャンによる点群測量 地形や物体を、三次元座標を持つ点の集合体として測量し、PC上で扱う

次回更新は1月21日(水)、11時の予定です。

 

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