これが間違いなくくるみの意志だった。相手に言えないことができると、その関係性は希薄になると考えていた。おそらくこの考えは、実際の恋愛関係に即したものとは言えないだろう。それでも今のくるみには、その恋愛関係の経験すらない。
理子はしばらく黙り込んだあと、息を吐いた。
「そんなふうに言われたらなんとも言えないけど……でも、それだけがくるみの価値を決めるってわけじゃないんだからね」
「うん、ありがとう」
くるみは理子にこの感謝ができるだけ伝わりますようにと願った。
礼が千春の部門に配属されてから数週間。礼と一緒に仕事をしてみると、驚くほどに仕事のスピードが早い。
SNSの方も炎上騒ぎを収束させたあと、『担当がまともなやつに代わったのでは』と噂されるほど投稿内容も変わった。それはいい。しかし、あれから問題も生じている。
(やっぱり岩下君の担当を外したのはまずかった……?)
あれからSNSの運用に礼が積極的に取り組み、フォロワー数が伸びたところで岩下を他の業務に振った。SNSをやらせても業務が礼と重複するだけで、そこに2人分の労働力を割く余裕がなかったからだ。代わりに礼にお願いしようとしていた業務を岩下に割り振ったのだが、それからもう数日、無断欠勤が続いている。
(人事と、何を話せばいいんだろう……ずっと電話も繋がりませんって?)
朝と午後に1回ずつ電話をかけているが、毎回留守番電話に切り替わってしまう。千春は頭を抱えながら、人事部とのミーティングが行われる会議室へと入った。
人事部長と、もう1人、千春の部門の担当者と2人とテーブルを挟んで向かい合う。
「岩下さんの主張は、どこまで事実ですか?」
「……どこまでって……」
人事からの話をまとめると、岩下は千春からのパワーハラスメントにより体調を崩しているのだという。彼が主張しているのは『業務をわざと振らない』『残業に付き合わされる』『暴言や悪口を言われる』『差別をされる』というものだった。
確かに岩下がそう感じてしまっていた可能性はある。しかし、それが彼へのあてつけであったり、こちらから強要したものであったりしたわけではないので、千春は言葉選びに迷ってしまった。
次回更新は1月15日(木)、11時の予定です。
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