食卓(しょくたく)には、毎食(まいしょく)のように山菜料理が並んだ。婆ちゃんはもちろん、両親も喜んで食べた。

子供は、あまり山菜料理は好きではない場合が多いが、慎太郎は違った。どの山菜もほろ苦い「きど味(み)」を秘(ひ)めていた。

「このほろ苦いきど味が何とも言えないよ」

そんな山菜の持っている大人(おとな)の味が、堪(たま)らなく好きだった。

いくら山菜採り名人のキヨノ婆ちゃんであっても、食べられる物でもまだ知らない山菜がたくさんあった。慎太郎は、学校の図書館で調べてみた。

慎太郎は、次第に山菜だけではなく、他の植物の名前を知るだけでその植物を好きになっていった。慎太郎の山野草好きは止(や)むことがなかった。

あまりの山野草好きに婆ちゃんも両親もあきれた。

子供の頃、慎太郎は、小学校の下登校(とうげこう)の道すがらや家の周(まわ)りからいつも植物を採取(さいしゅ)し、家で首(くび)っ引(ぴ)きで婆ちゃんから買ってもらった植物図鑑とにらめっこをしていた。

夕闇(ゆうやみ)が迫っても、にらめっこが続いた。

「慎太郎は、アタマが狂(くる)っているのではないか。あれじゃ目を悪くするよ」

その言葉通り、目を悪くし眼鏡(めがね)をかけるようになった。

「これでは、百姓(ひゃくしょう)にもなれないし……」

と両親は将来(しょうらい)を心配(しんぱい)した。

でも、婆ちゃんは違った。