あれから70年「あなた今晩のご飯何にする?」「何でもいい」と気のない返事。子供の頃なら母親が「今晩何食べたい?」と聞けば「ハンバーグ」「焼き肉」「カレーライス」と次々に返事が返ってきたのに「何でもいい」しか頭に浮かばない。

「何でもいいじゃあ困るわ」と嫌な顔をされるが全く何も思い浮かばない。たぶん聞いている方も何も浮かばなくて、自分の情けなさを相手に転嫁するために聞いているに過ぎないと想像するのだが、そんなことは怖くてとても言えない。

テレビの温泉巡り特集を見ていた奥さんが「あなた、私たちも温泉に出かけましょうか」「面倒だな、行きたいなら友達と行ったら」とこれまたすげない返事。あの子供の頃の楽しい日々はどこに行ってしまったのだろう。

ささやかな日々の中にかけがえのない喜びがある。そんなことはウクライナの戦争のニュースを見るたびに思い知らされるのだが、平和な社会にどっぷりつかっている日本人には、もはや喜び方や感激を忘れた飛ばないカラスか、太り過ぎて飛来の時期が来ても飛べなくなったお堀の鴨のようなものになってしまっている。

鴨なら食べられるがカラスじゃ食うことも出来ない、やかましいだけの厄介者でしかない。

テレビの人気番組で「ボーっと生きてんじゃねーよ!」が流行語になったが、これからが本番なのです。退職は職を退いただけのことであり人生を退いたのではない。人生の本領はここからが本番なんですというか、この人生最後の舞台を踊らずして今までの苦労は何だっただろうと思います。

人の一生は四国遍路の巡礼にもよく似ています。遍路全行程1450キロといわれています。これを人生の行程とすれば1番札所の霊山寺を出発して、23番の太平洋を望む薬王寺までが発心の道(場)といわれ、人生でいえば少年時代に社会のルールなどを学び知識を身に付ける時期ということですね。