7 荒野台(こうやだい)

荒地(あらじ)の海岸に出たら霧が発生していた。今日はサーファーばかりでなく、家族連れの海水浴客も多い。靴を脱いで裸足で海岸線の砂浜を歩くことにした。

この前裸足で歩いたのはいつの頃だろうか。

もしかするとはるか遠い昔のことかもしれない。今回の常陸の海岸歩きは、大洋駅から海岸に出て、幾つかの海水浴場を通って荒野まで歩き、荒野台駅がゴール。

最終的な歩行時間は4時間、距離は19kmだったが、霧のため涼しく歩くことができた。

どの海水浴場もにぎやかだ。これまでの海岸歩きのような寂しい風景はない。

子供たちは波と遊び、砂を玩具としている。砂をかけられて泣いている男の子。大人たちはバーベキューの準備に忙しい。ぐっすり寝込んでいる水着の美女もいる。この世界は、平和だ。

しかし砂浜には50cmほどの鮫が死んでいた。あの鮫独特の冷たい眼のまま、横たわっていた。

また、1mはある、大きな海亀が蹲(うずくま)っている。甲羅の高さが50cmはあるだろう。じっとしているように見えるが、まったく動かない。

大きな甲羅の中で亀は死んでいた。かわいそうな姿だった。写真は撮れなかった。

霧が出ていて涼しいと書いたが、さすがに昼過ぎると暑くなってきた。

シャツは汗で濡れている。ようやく海岸の最終地点に着いた。ビールが飲みたい。

国道に出ると焼き蛤を名物とする食堂があったので迷わず飛び込んで生ビールを注文した。ビールも美味しかったけれど、目の前で焼いて食べる蛤も絶品。

しかし勝手だね、鮫や亀の死に無常を思った者が、こうして生きた蛤を焼いて食べているのだから。

荒野台駅への途上、小学校の校庭に薪を背負って本を読んで勉学に励む二宮金次郎の像を見かけた。まだ残っていたのだね。私の小学校にもあったが、いつのまにかなくなっていた。

荒野台駅で水戸行きの電車を待っていると地元のご婦人が二人やってきた。

話をしていたら、最近このあたりも暑くなった、海風のせいで洗濯物は乾燥したらすぐに取り込まないと衣類が濡れたようになる、と言って鹿島行きの電車に乗り込んでいった。

(2005年7月31日)

 

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