【前回の記事を読む】「もう死んでいるじゃないか、死体に手術なんかするな!」「頼む、まだ救えるかもしれないんだ!」緊迫した手術室で衝突する眼光

罪の行方 心臓手術が救った二人

私は手術をともに行う器械出しの看護師が「おにかな蘭ちゃん」であることを確認し、ほんの少しほっとした。そして彼女に声をかけた。

「心臓の壁を縫うことになるから大きな針の付いた太い糸がいる。2-0タイクロンの一番大きな針付きの絹糸がたくさんいる」。

彼女は小さく頷いた。

「それから、針孔を補強するための大きめのフェルトのプレジェットもたくさん必要だ。5×8ミリぐらいの大きさ。そして、フェルトの帯も数本いるかもしれない」。

蘭ちゃんは私の方を見て、目で承知の合図をした。

次いで、外回りの看護師に指示をした。

「サイドアームの位置が足側によりすぎていて、手術をする時邪魔だから、少し頭側にずらしてくれ」

「この位置でいいですか?」

「それでは少し頭側によりすぎている。その中間ぐらいの位置がいいんだ」

「先生が望んでいる位置が私にはよくわからないです」

「私もここだと指さしてあげたいところだが、あいにく右手は完全にふさがっているし、今の体勢を変えることはできないんだ。もう一度足側に動かしてくれ」

「この位置でいいですか?」

「そこでいいよ、その位置で固定してくれ」。

私は外回りの別の看護師に、首から膝頭までのすべての場所を消毒するように指示した。その間も私はずっと、心臓マッサージを続けていた。そうこうするうちに、もう一人の心臓外科医が、手洗い・消毒を終えて手術着を着て手術室に入ってきた。彼がスタンバイできたところで、心臓マッサージを交代してもらった。