【前回の記事を読む】「市内の病院に運ばれて、かなり危ないらしい」配達中の同僚が居眠り運転トラックに突っ込まれて重体。そのまま意識は戻らず… 

第2章 知人の不幸

ファインズが先制し1—0、5回の裏が終了した。前半が終了。グラウンド整備が始まり大輔は、他球団の試合のスコアを見ようと携帯を出した。すると、となりの観客が「え……」と、なにか驚いた表情で携帯を見ていた。その理由がすぐに分かった。大輔も携帯の画面を点けると、あるニュースが目に入った。

 ――元大阪ファインズ 青田健一郎(26)死去――

「…………青田が…………そんな……」

青田健一郎。一昨年まで大阪ファインズにいた外野手だ。高校卒業後、ファインズに指名され3年目でレギュラーを勝ち取り新人王に輝いた。

走攻守すべて兼ね備えており、ガッツあふれる闘争心むき出しの選手だった。年が同じということもあり、大輔が一番応援していた選手だった。新人王を獲得して、誰もが将来球団の主力になる選手だと思っていた。

 ――しかし、その年のオフに悲劇が襲った――

青田選手が「ギランバレー症候群」という神経障害の病気になった。簡単に説明すると、手足の力が入らなくなり動かなくなってしまう病気だ。体が資本のスポーツ選手にとっては致命傷な病気である。懸命な治療も虚しく、2年後青田選手は戦力外になった。

青田選手は決して諦めていなかった。もう一度選手として復帰する。必ず戻ってくる……。そう宣言し、大輔も信じていた。そんな中での訃報である。ニュースの詳細を見るとギランバレー症候群が悪化していたそうだ。

この病気が悪化すると手足だけでなく、口や呼吸する肺の筋肉まで動かなくなる。青田選手もそうなってしまい、死を迎えてしまった……。大輔は、その後放心状態になってしまい、気がついたら試合が終っていた。ファインズは勝利したが、喜びはなかった。

「なんでよりによって……青田が……そりゃないよ」

大輔は宿泊先のホテルでひどく悲しんでいた。ここ最近知人の不幸が続いてしまった。川場さんの交通事故死。そして今日の青田選手の病死。度重なり起きた訃報で大輔は、死について考えるようになった。ふと、こうつぶやいた。

「今の自分が明日死んだら、何が残るだろう……」

青田選手みたいにアスリートでもない、想像を絶する治療とリハビリで誰かに勇気を与えたわけでもない。自分のことを知っている人は友人数名と家族親戚と近所の人くらいだ。数えられる程度だ。

「何も残らない……。絶対後悔したまま死ぬのでは?」