【前回の記事を読む】人間が好きだ。特に子どもが大好きだ。勤務医としての23年間で出会った多くの子どもたち。病気、家庭事情、挫折、夢…

一 小児科医として歩き出す 病気の子どもの世界へ

「生まれてこなければ……」
―人生に魅力がなく 資格社会に息詰まる―

「生まれてこなければよかった!」。ショッキングな記事が載った。3分の1の小中学生がそう答えたという。2月(平成9年)の四国新聞に出た盛岡市の子どもたちのアンケート結果だ。

今、子どもたちは、病んでいるのかもしれない。いじめ、無気力、非行、テレクラ、援助交際……子どもたちって本当は無邪気で、希望に燃えて、きらきら輝いているはずなのに、夢がなく、お金や快楽や退廃的なものにしか興味を示さないとは。

子どもたちに生きてもらいたい、生きて輝いてもらいたい、人生の楽しさを、生きる喜びを知ってほしい。その手助けになるなら、子どもを支える大人たちへの応援歌になるなら、大役だが、頑張って書いてみよう、そう決心した。

そんな矢先のこの記事。「生まれてこなければよかった!」とは。何が子どもたちにそう思わせるのか。小児科医として、大人としてこの結果はきつい。かなりのショックだ。この結果にがく然としたのは私だけではないだろう。

多くの親も、教師たちも、それから橋本首相もショックを受けたに違いない。所信表明の中で「子どもたちが夢を持てる日本に」というキャッチフレーズを掲げていたからだ。

人生に疲れ果てた大人が言うようなことを、なぜまだ準備段階の子どもたちが言うのだろう。人生これからだというのに、どうして面白くないと決めつけるのだろう。幼いわずか10年やそこらで、そう決めつけてしまうほど、何を見て何を悟ってしまったのだろうか。

暗く重い話になってしまったが、これをはぐらかしては欺瞞(ぎまん)的で前には進めないので書かせてもらう。

おそらく自分の人生の先が見え、その見える人生が全く魅力ないばかりか、いやなことの連続に違いないと思い込んでいるのだろう。

大人たちは子どもの幸せのためを思って、公平にと同じ服を着せ、学校では正解ばかり教えてきたのに。その正解さえ覚えれば偏差値の高い進路と職業が用意される。資格社会だから、資格を取らなければ望む職業に就けないのは仕方がないと人は言うだろう。

大人も子どももだれもが納得しあきらめている。けれど何か苦しい。息が詰まって窒息しそうだ。したり顔で言う大人の言葉がなぜか「むかつく!」。真面目そうな奴を見てもむかつく。もたもたしてるのを見ると、なおさらむかついてくる。