「チーホ・アルニタク・ウレシ! ご飯(はん)をちゃんと、食(た)、べ、な、さ、い」
おとうさんが、もう少しで頭から湯気(ゆげ)が出るときの名前(なまえ)の呼(よ)び方でいった。
「う、ん……」
生返事(なまへんじ)をしながらチーホはご飯を食べるふりをした。
いいや、ふりをしているというか、食べているうちに頭の中の空想がどんどんふくらんで、お口がお留守になってしまうんだな。
ほーらまたさっきの蜂がダンスを踊り出した。ケケ。
すると、「チーホ、どうした!」
おとうさんにまた強く言われて、ハッとしては一口(ひとくち)食べ、また一口食べるという具合(ぐあい)だ。
とうとうおかあさんに、「早く食べないと学校におくれるわよ」とたしなめられた。
チーホは急に目(め)が覚(さ)めたみたいに、いっきに大好(だいす)きな目玉焼(めだまや)きや、黒(くろ)いトマトやお豆腐(とうふ)のスープをパクパクパクっと食べて、
「ごちそっさまありょうた!」
がらがらとランドセルを背負(せお)って、靴(くつ)はいて、バタバタと走(はし)っていったよ、ケケケケ……