【前回の記事を読む】「笑っていられるってことは、親しくはなかったのね」…その人の激しく損壊した遺体を発見した。確かに関係性は薄かったが…
サイコ1――念力殺人
「去年、パパの病院で数か月間研修をしていた時、私が担当していた患者さんの検査中に突然MRIが故障しちゃって、それで彩斗が呼ばれたの。その時MRIのことについていろいろ詳しく教えてもらって、それから仲良くなって。ね」
「僕なんて大した知識はありませんが、今は主にMRI販売を手掛けているので多少のことは知っていたので。何度かお会いするうちにとても素敵な方だと思ってこちらからデートにお誘いしたんです。でもおつきあいするまで先生の娘さんだとは全く気づかなかったんです」
「本当か? 増田ってそこまでありふれた苗字じゃないと思うけどな」
邦史郎がにやけながら横槍を入れると鍋本は慌てた。
「いや、本当ですよ」
「そうむきになるなよ。俺は相手がおまえならどっちだって構わないんだからな。ほら飲め」
邦史郎は鍋本のグラスにビールを注いだ。
「ところで先生、先日納入させていただいた新型MRIはどうですか?」
邦史郎はグラスをテーブルの上に置いた。
「控えめに言って最高だね。今までのやつは閉所恐怖症の患者さんは無理だったが、今度のやつはCTみたいに先の方が開いているし、検査の時の音も以前より小さくなっている。しかも3テスラだからMRAでアーチファクトも出ないし、AIが搭載されていて画質向上、検査時間短縮も圧倒的だ。おまえに任せてよかったよ」
「そう言っていただけると幸いです。会社に価格交渉した甲斐があります」
食事が済むと鍋本は帰宅した。麻利衣はお風呂に入らせてもらった後、2階の千晶の部屋に用意された来客用ベッドの上に横になった。
千晶がライトを消すと麻利衣は「おやすみ」と言って目を閉じた。しばらくすると暗闇の中で千晶がぽつりと言った。
「麻利衣、私、幸せになれるかな」
「もちろんよ。とてもいい人じゃない。きっと幸せな家庭を築けるよ」
しばらく間をおいて千晶が再び呟いた。
「良祐は私のこと恨んでるかしら」
そう言われた途端、麻利衣は昼間のおぞましい彼の死に様を思い出しぞっとした。
「悪いのはあの人でしょ。千晶は何もしていないんだし、恨まれる覚えはないはずよ。もうあの男のことは忘れた方がいいよ。千晶は鍋本さんと幸せになることだけを考えて」
「ありがとう。麻利衣」
しばらくすると千晶は眠りについたようだったが、麻利衣は林良祐の死体の残像が瞼の裏にいつまでも浮かび上がり、なかなか寝つけなかった。