【前回記事を読む】組織において、自分が想うほどの変化が許されないなら、淘汰される前に逃げろ! 新規案件や転属、転職などで自分を流動化せよ

第三章 さようなら、ホモ・エコノミクス

「Keiクンの立場で、社員と一緒に先へ行くんやというのなら、徹底的に仕事を多様にして、ひろくオモロく提供するか、転職したら手に入らんほど、学んで成長する機会を用意するしかないわ。AIの受付番台みたいに、はい、プロンプト貼りました、アタマぜんぜん使ってませ~んみたいな、受け身の仕事をぽろんと用意しても、これからのひとたちが寄るかいな」

「おっしゃる通りです」……でもね、そっちの受け身で働くほうがいいひとたちも、多いんですよ。

「ただし、脱出する側も、よりモラルと能力を問われるやろうね。単にわがままなお子ちゃんが、お肉屋さんよりアイスクリーム屋さんが好きや言うたって、そら、アイスクリーム屋さんのほうにも、なによりお客さんに、価値を選ぶ権利はあるやろ。

どんなアイスクリームをつくれば世の中に喜ばれるのか、こころざしも粘りも大切や。〈好き〉にも松・竹・梅の質がある」

「僕、なにが好きで、なに屋になりたいのか、本当は自分でもよくわからないんです」

「シュウトくんは、我が道まっしぐらかと思ってた」アッちゃん、ちょっとびっくりする。

「メシが食えて楽しいなら、目移りは、ええことかもしれん。考えてみいや。会社の中で、あんたのジョブ雇用は、これでっせ。この職能をリスキリングしてくださいと言われたって、そのジョブがAIに喰われず、3年後にまだあるのかどうかもわからへんのや。

〈うつろえる〉というのも、一種の能力かもしれん。それに、組織の都合通りに変化するだけでは、時代が変わるスピードのほうが組織より速い場合、この先、もっと立ち遅れてしまう。自ら学ぶ責任は、いま以上について回るはずや」

言われた通りにやればいいことは、もう、みんなやっとるわい。自分で工夫して考える能力は、結構、他でも活きるもんや。でもなにかオカシイぞ、そう思ったら、シバリから脱出するチャンスを狙おうや。ワイだって、逃げ続けておるよ。

前の会社から。教授会から。さっきは、教務課の針ヶ谷さんから……そして、誰も見たことがない、ホモ・エコノミクスといわれる机上の人類から。

すまんな。こうすればビジネス・スター、みたいな答えはないねん。ただな、あんたたちには、揺れて悩む時間が、まだ、ぎょうさんあるやんか。悩むのを、悪いことのように扱うな」

オッチャンは、ひとりひとりと目を合わせながら話す。

「大事なことを言うで。脱出にはそこそこ知恵がいるんや。毎日毎日、しゃあないSNSに頼るより、なぁ、いい本とつき合う時間をつくらへんか。そして自分の内にあるモヤモヤと向き合うんや」