そんなこともあってか、学校での雰囲気も少しずつ変わってきていた。健斗と悟はいつも一緒にいるが、他にも晃とはタイプの違う数人が加わり、新しいグループとなっているようだった。
晃は運動部とは名ばかりで、ちっとも顔を出さないから今や幽霊部員になっていた。気づくと、晃は誰と一緒ということもなく、その場の誰かとふざけているだけのようだった。一人じゃないのに、健斗や悟が他の誰かといるだけで、一人にされているような気がした。
どうってこともないことだと思いつつ、晃は学校生活すら手持ち無沙汰な気がしてきていた。誰と話してもなんだか楽しいと感じられなくなってきて、いつもちょっと寂しかった。
小学校時代は何も考えなくて済んで楽だったな。
少し乱れ始めた晃を追い詰めてくるのは塾での出来事ばかりではなかった。
晃は中学校の生活指導で数学教師の沼山あつ子に目をつけられていた。元々は晃を気に入って、目を「かけて」くれていたのかもしれない。少なくとも周囲からはそう見えていた。沼山は数学が苦手な晃をみんなの前でよく指名した。
「山口、この問いの答えは?」
また俺? と嫌々考える。
「えーっと」
「答えられないの? わかる人?」
当てられる、答えられない、これを繰り返すうちに妙な関係ができてきた。
沼山はなんとしてでも晃の数学をできるようにさせたいという使命感が強くなり、晃はますます苦手意識を持つようになった。
沼山の熱意は、晃が逃げれば逃げるほど追う恋心的な執拗さだった。
それが愛情なのか、憎しみなのか、もはや傍から見てもちょっとわからないくらいで、それは目を「かけて」いるのではなく目を「つけられて」いるとしか思えなかった。やる気スイッチは晃ではなく、間違いなく沼山に入っていた。