「ほんとにいい人に巡り合ってよかったわ。背が高くてハンサムだし、優しくて気が利くし、会社でも営業のホープだって社長さんが褒めていらっしゃったわよ」
テーブルに皿を並べながら沙織が褒めそやすと鍋本は照れ臭そうに頭を搔いた。
「実は会社からは取引先のお嬢さんに手を出すとは何事だって不信を買っているんですけれどね」
「そんなの気にするな」
テーブルの席に着いた邦史郎が言った。
「二人が愛し合っているんだからしょうがないだろ。誰も邪魔はできないさ。俺と母さんだって同じ病院で働いていた医者と看護師だったんだ。その時も親父やお袋が世間体がどうだとかうるさくてな。俺は母さんと結婚できないのなら病院は継がないって言って大喧嘩になってそりゃ大変だったんだよ」
「もう、そんな大昔の話はやめてよ。それより結婚式はいつにするの?」
沙織がはにかみながら言った。
「7月5日にしようかと思っています。僕の誕生日なんで」
「あら、何で誕生日に?」
「いや、僕結構忘れっぽいもんですから、将来結婚記念日を忘れないために誕生日に結婚しようって彼女の方から」
「まあ」
「そうよ。合理的でしょ」
千晶が言った。テーブルにおいしそうな料理が揃うと沙織も席に着き、五人は夕食に舌鼓を打った。麻利衣は高級そうな白ワインももらった。
「やっぱママのコロッケ最高だわ」
千晶がコロッケを口に頬張りながら言った。麻利衣は食べながらいつの間にか涙を流していた。
「どうしたの? 麻利衣ちゃん」
沙織が心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。私、人の手料理なんて食べるの久しぶりで、というより人と一緒に食事をするのも久しぶりで、何だか泣けてきちゃって……」
「そうだったの。うちでよかったらいつでも食べに来てね」
「え、こないだ焼肉奢ってあげたじゃない」
千晶が不服そうに言った。
「そうなんだけど」
麻利衣は涙を拭った。しばらくして落ち着くと彼女は麻利衣に訊ねた。
「ところで二人はどうやって出会ったの?」
千晶は少し顔を赤らめた。
次回更新は12月28日(日)、21時の予定です。
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