【前回記事を読む】被差別者が差別されていることを主張できない場合は? 差別を抑止・防止するために必要な「差別の定義」とは。
第1章 憲法が保障する権利
権利の背景にある価値観
憲法の保障する権利群は、何らかの価値観あるいは原理の下で整合的に規定されていると仮定した場合、その価値観は何だろうか。以下では、参照文献それぞれの見方を紹介する。
芦部・憲法(10頁):自然権を実定化した人権規定は、憲法の中核を構成する「根本規範」であり、この根本規範を支える核心的価値が人間の人格不可侵の原則(個人の尊厳の原理)である。
樋口・憲法(153頁):「すべて国民は、個人として尊重される」(一三条前段)という規定が、人権という観念を支える要石の意味を持つ。長谷部・憲法(115頁):いかなる個人であっても、もしその人が自律的に生きようとするのであれば、多数者の意思に抗してでも保障してほしいと思うであろうような……権利の核心にあるのは、個人の人格の根源的な平等性であろう。
木村・憲法(61頁):憲法13条前段は、「すべて国民は、個人として尊重される」と定める。この規定は、憲法が保障する権利規定の中核的原理を定めたものと理解されている。14条以下に規定される諸々の権利は、突き詰めれば、全ての国民を個人として尊重するために保障されている。
青井・山本・憲法(12頁):日本国憲法を貫く根本的な価値である「個人の尊厳」は、さらに憲法13条前段に「すべて国民は、個人として尊重される」という「個人の尊重」原理としてあらわされている。
このように、十三条前段の規定に込められた価値観あるいは原理が、憲法が保障する諸権利を支えているという共通理解がある。ところが、十三条後段は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定としている。
もしこの部分を、全ての国民の権利は、最大限尊重されるものの、公共の福祉の名のもとに公権力が制限可能と解釈してしまうと、十三条に込められた価値観は核心でも原理でもなく、逆に公共の福祉の方が核心になってしまう。この点について、長谷部・憲法が明快に整理しているので次に紹介する。