次の日、珠輝は半信半疑で待っていた。母はもとよりたいていの大人は珠輝との約束など守ったことがなかったからだ。しばらくするとお姉ちゃんの足音が聞こえてきた。こうして珠輝は毎日お姉ちゃんの足音を待ち望むようになった。

ある日お姉ちゃんが、

「珠輝ちゃん、今日はお姉ちゃんの家に行こうか。帰りもお姉ちゃんが連れて帰ってあげるから。」

こうしてお姉ちゃんは杖を付きながら珠輝の手を引いて自分の家まで連れていき、昼食まで食べさせてくれたのだった。家の中では全て這いながらの行動だった。お姉ちゃんの家には事務員さんや運転手さんがいて、まるで童話の国にでも行ったようだった。

こうして珠輝はお姉ちゃんの家に時々お邪魔するようになった。お母さんも珠輝には親切だった。お父さんに会ったことはなかった。お姉ちゃんには君代ちゃんの他に弟と妹がいた。

またお姉ちゃんは珠輝より六つほど年上だったから他の子供と違って話が合った。例えば歌謡曲の話など富子には通用しないことだったが、お姉ちゃんはよく知っていた。それに珠輝の知らないことも教えてくれた。

この人こそ妹以外で初めて知った障害者だった。だから珠輝は誰にも話せなかったことでもお姉ちゃんには話すことができた。

「お姉ちゃん足はどうして悪くなったと。」

「お姉ちゃんは生まれつきよ。脳性小児麻痺と言って小さい頃は歩くことができなかったのよ。それで一生懸命杖を突いて歩く稽古してこれだけ歩けるようになったのよ。」

「そう、歩けるようになってよかったね。」

「でもお姉ちゃんは杖を使わないと立つことも歩く事もできないからおうちの中では這ってるのよ。」

珠輝はお姉ちゃんが気の毒だった。

次回更新は12月15日(月)、20時の予定です。

 

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