お姉ちゃんとの誓い
富子が幼稚園に通い始めると珠輝の一日は子守とラジオを聞く生活になった。変わらないのは母の嫌みと折檻だった。或る日、聞いたことのない不思議な足音がして珠輝の家の前で止まり女の人が入ってきた。やがて珠輝は母に呼ばれた。
「珠輝、川村のお姉ちゃんが遊びに来てくれたよ。よかったね。」
人が来ると母の機嫌はそんなに悪くないから珠輝も少しは安心だった。
「珠輝ちゃんこんにちは、私は川村の絹代姉ちゃんよ。珠輝ちゃんは目が見えないでしょ、お姉ちゃんは足が悪いから仲よくできたらよいなあと思って遊びに来たのよ。」
予期せぬ事に珠輝は一瞬言葉が出なかった。
「この人は違う。」
珠輝の中で何かが囁いた。今まで会ってきた人とは明らかに違って物腰が優しかった。
「川村のお姉さんってあのお金持ちの? 君代ちゃんのお姉ちゃん。」
「そう、君代ちゃんは妹よ。」
君代ちゃんというのは珠輝と同い年だが何となく頭が高いというか、子供離れしたところがあり、この辺の子供たちとはあまり遊ばないようだった。
川村さんというのは炭鉱師として成功し、村では唯一の名士だった。奥さんは特別な人としか付き合わない人だったが、何故か珠輝の家には親切だった。
珠輝の家から三百メートルくらいあるのに電話の取り次ぎをよくやってくれた。そんな家のお姉ちゃんが何故珠輝の所に来てくれたのか真相は分からないが、とにかくお姉ちゃんは優しい人でよく可愛がってくれた。初めて会った日、なぜか珠輝はこのお姉ちゃんと一緒にいたいと思った。
「お姉ちゃん、また来てくれる?」
「お天気だったら毎日来るよ。雨が降ったらお姉ちゃん足が悪いから来られないの。両手で杖を付かないといけないから傘がさせないのよ。」
「お姉ちゃん絶対来てよ。」