手を振り上げて悠希さんを引っ張たこうとすると、俊雄さんがそれを制止した。

「駄目だ、亜紀。そんな事をしては彼女の思うツボだ」

「で、でも……!」

「僕が愛しているのは亜紀だけだ」

そう言って、俊雄さんが私にキスをした。

「おお、こんなに大勢の前で……やるぅ」

南君が称賛の拍手をし、長澤さんも、良いねぇと拍手をする。

「や、やめて! どうして? 俊雄さん、そんな泥棒猫なんて相手にしないで……! 私の初めてを奪った責任を果たして下さいますわよね? 私を選んでくれますわよね? 俊雄さん!」

悠希さんが涙目になって俊雄さんにすがる。

俊雄さんはゆっくりと私から唇を放すと、悠希さんに言った。

「では、その指輪を慰謝料として納めて下さい。亜紀には新しい婚約指輪を一緒に買いに行くので」

「そ、そんな……! 酷いですわ! 私を弄んだのですね!」

悠希さんが泣き始める。でも、同情の気持ちなんて湧いてこない。

「こんな事をして、今の会社にお勤めできると思いますの?」

「クビならクビで良いです。新しい会社を探すだけですから」

「俊雄さん! こんなにお慕い申し上げていますのに……。裏切るなんてあんまりですわ!」

「……勝手に思い込んだのはそっちでしょ? もう俊雄さんに固執するのはやめて!」

「うぅ……!」

悠希さんが部屋から泣きながら出て行った。

これで終わった。決着がついた。

ホッとして、全身の力が抜けるのだった。

悠希さんに指輪を盗られたものの、何とか諦めてもらえたみたいで、安心感に包まれた数日が過ぎた。そして、この数日で、俊雄さんと結婚に向けた話を進めている。まさに幸せな状況だった。