「その代わり、先へ進む食料を貰いたい」
そう言うと、懐から小さな布袋を取り出す。袋の口を開けて、中の砂金を見せる。
黒狼の目が光る。
「金か。いいだろう。何が欲しいか言ってみろ」
法広が、何が欲しい、と老剣を見る。老剣の、米、菜と肉という言葉に、黒狼も頷いた。そして、烏丸を見る。
「約束を忘れるな」
低い声で念を押した。
長老の村から、兵に芋や菜、肉などを持たせて、雑木林で待つ隊列に戻る。村の兵は、一行を監視する命を受けている。囲みを解いていない。
不安で待っていた兵たちは、届けられた肉や菜に喜びの声を上げた。
焚き火の周りで兵は鍋を囲んでいる。英子は、菜の雑炊を碗に盛っている。英子も法広も肉食(にくじき)はしない。英子は老剣から、村の長老らの話を聞いている。傍らに法広がいる。蝶英は外回りで警戒している。
「法広、渡来人は、火の山の近くか」
英子が尋ねた。
「かつて火を噴いたという山を、見ている記憶が残っております」
「記憶が残る」
英子が怪訝な顔をした。渡来人の過去の記憶を、どうやって知ることができるのか。
「そんな文書でも残っているのか」英子の問いに、法広は答える。
「いえ。たとえそのような文書があっても、海を渡って倭から中華に届くことはありますまい。洛陽には卜占(ぼくせん)に長(た)けた術者がおります」
「卜占。あの亀の甲羅や獣の骨を焼いたりする」
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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