「今、おまえたちの持つ武器を分けてほしい」
老剣は頸を振る。
「それはできない。長い旅なので、必要なものしか持っていない。ここで、少しであろうと手放すと、旅に差し障りがある」
きっぱりと断った。行く土地土地で、ある村にだけ武器を渡すと、その地の村同士の争いに巻き込まれかねないことになる。情勢もわからない土地で、安易に承諾はできないのだ。それは老剣の経験だった。断られると、途端に黒狼は不機嫌になる。
「それなら、この先に行かせるわけにはいかない。力尽くでもな。ここにも兵はいる」
老剣と黒狼は、にらみ合うことになる。
「まあ、待て、待て」
烏丸が、仲に入った。
「この老剣殿は都の人だ。簡単に、すぐに応とは言えない立場だ。そこへいくと、私は前野の館の者だ。前野の武器でどうだ。弓、矢、槍、剣。どれも都の物と遜色は無い」
烏丸の言葉に、黒狼も興味を持ったようだ。
烏丸は老剣に「これは前野主とこの村の取引だ。おぬしも英子様も関わらない」そうささやいた。
そして「武器は、ここの毛皮や干し肉と交換する取引だ。どうだ」黒狼に言葉を続けた。
「前野主か」
黒狼は腕を組んだ。
「よかろう」
「ただ、細かい取り決めは、私が前野に帰ってからだ」
「待て。北に行く前に、今、ここに何か置いていけ」
「北へ行けば、帰りにここへ寄る」黒狼は鼻で笑う。
「生きて帰れればな」
「金(きん)を出そう」
法広が、口を挟んだ。