いつだったか真冬だったことは記憶にあるが、富子と紐の取り合いをしたことがあった。

それを見た母は珠輝を富子から引き離すや否やひっぱたき、衣服を脱がせるが早いか風呂場に連れていき頭から水をジャブジャブ掛けられた。

驚いた祖父が母から珠輝を引き離し衣服を着せてコタツに入れてくれた。このようにたとえ従姉妹たちに非があっても何があってもいつも折檻を受けるのは珠輝だった。両親が母の兄弟たちに迷惑をかけているからには我が子を犠牲にするしかなかったのだろう。

法子の子供たちが来て珠輝の玩具を散らかしてそれを彼女が気付かなくても父は彼女のせいにして彼女を折檻したことも再々だった。だから珠輝は彼等がやってくることを好まなかった。

また母や祖母も他人に向かって珠輝を「人並みない子。」と言ってはばからなかった。

それが今後珠輝が世間からどのような評価を受けようなどと考えもしなかったのだろう。ある日、祖母が二人に五円玉をくれたので富子が紙芝居を見に連れていってくれた。この日から彼女は紙芝居を見るとき水飴やお菓子を買って食べながら楽しめることを知った。

ところが終わって帰り始めるとどこからともなく石は飛んでくるし誰かが棒で叩いては「めくら、めくら」とはやし立てるのだ。

何が何だか珠輝はあ然とするばかり、富子は大声で泣きながら珠輝の手を引き走って連れ帰った。石や棒で富子も被害を受けたと思っていたのだがどうやら被害にあったのは珠輝だけだったようだ。

何故自分がめくらなどと言って何もしないのにそんなことをされなければならないのか分からない珠輝は、「お母さんめくらって何のこと。」と聞いても母からも祖母からも答えはなかった。ところが紙芝居に行く度にいじめは続いた。