「いいですね、そういう友だちがいるって」
「そう? まぁ、長く生きてたら色んな人がいるってことよ。それだけ」
「ただの友人、なんですか?」
「そうだよ」
「ふーん」
「何よ」
「なんか……職場で見ないような顔してたから」
京弥とは本当に何もない。本当に良き友人としてやってきて、これからも変わる予定はなかった。
「吉川君は、そういう相手いるの? あ、こういうのって聞いちゃダメなんだっけ」
「別にいいですよ。今はプライベートなんで」
「そういうもの?」
「俺はそう割り切ってます。今は上司の水瀬さんじゃなくて、知り合いの女性だって思ってますから」
「ふーん、そっか」
「相手はいないです。今はそういう気分じゃないんで」
「そう」
大通りに出ると、礼がタクシーを捕まえてくれた。タクシーが止まり、そのドアが開く。
「意外とすぐ捕まりましたね」
「そうだね」
「どうぞ」
タクシーに乗り込むと、礼が少しかがんで視線を合わせてくれる。
「じゃ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」