そうこうするうちにある程度まとまった金ができたので、手頃な売り家を見つけいずれは借家にする予定で買っておいたのだ。彼は当分家賃は要らないからその家に住んではどうかとまで言ってくれた。重正夫婦にとっては大恩人だが嘉子は姉夫婦に対して肩身が狭くなった。
それ以来法子は暴力こそ振るわなかったものの、珠輝を言葉の暴力で苛(さいな)みつづけた。ところが引っ越しの費用もなかったのだから重正という男にも呆れてしまう。今度は学が催促無しでかなりの金を用立ててくれたのだ。
ないない尽くしの重正一家は全て嘉子の兄弟に助けられ、昭和二十六年秋、飯塚市から現嘉麻(かま)市に移った。次に重正は仕事を見つけなければならなかった。
これにはやや責任を感じたのか村上家の重正の叔父に当たる人が菓子の仲卸という職を世話してくれた。だが重正の気質が影響してか家族を食べさせていくには十分な収入を得ることは難しかった。
そんなおり、長太郎の家にも変化が見えた。長年炭鉱に務めていた長太郎が退職することになった。彼も既に六十歳を過ぎているのだから当然だろう。長太郎名義で借りていた社宅を引き渡さなければならないので重正たちとの同居が決まった。
元々器用な長太郎は壁塗りなどはイチノに手伝わせ、広い屋敷に建て増ししていったため大工の手間賃もかなり節約できた。そんな中、法子が二人目の男児を出産した。やがて家の増築も完成し、昭和二十七年の秋晴れ、長太郎一家が重正親子の家に引っ越して来た。
次回更新は12月11日(木)、20時の予定です。
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