重正一家を襲った大惨事と同居生活

長太郎の家に珠輝を預けて重正夫婦が出かけている隙に空き巣が入り、嘉子が中国から苦心して持ち帰った着物は根こそぎ盗まれた。最初に空き巣の被害を見つけたのは学だった。

彼は珠輝が疎ましかったのかそれともやってくるたびに珠輝をぼやく法子の言葉を聞き飽きたのか、日曜日に富子を背負い珠輝の手を引いて重正の家にやってきて現状に気付いたのだった。

彼は早速警察に連絡し、八幡(やはた)にいる姉夫婦に警察から連絡してくれるように頼んで帰って来た。帰宅した嘉子もさすがに落胆した。そんな嘉子に重正は、

「親の前で泣き言は言うてくれるなよ。着物は必ず買ってやるからな。」

しかしその約束は果たされなかった。だが災難はこれだけでは済まなかった。人のよい重正は同僚の男の保証人を引き受けてしまい、その男が姿をくらましたため借金は彼が払わなければならなくなった。

かと言って重正夫婦に貯蓄があるわけではなし、結局会社を辞めて退職金を当てなければならなかった。

そうなると早速社宅を引き払わなければならない。たちまち住むところに困った二人に助け船を出してくれたのが法子の夫、繁好だった。真面目一筋の彼はこつこつ小銭を貯めては人に少しずつ用立ててはわずかな利息をもらっていた。