しかしながら、これらの認知症治療薬はいずれも単独で認知症の進行をストップさせる効果は乏しく、業界大手の製薬会社は、複数の薬剤の併用により相乗効果が期待できるとした併用推奨大キャンペーンを繰り広げており、これら認知症治療薬の販売金額は累計で八千億円を超える規模に膨らんでいた。

そんな中で、渋沢製薬の塚田グループが開発したアルツカットは、この時代にはまだ日本ではあまり行われていなかったプラセボを対照薬とした二重盲検(もうけん)比較試験を行い、単独投与で認知症の回復あるいは進行防止効果を表す結果が示され、大きな話題となっていた。

遅ればせながら渋沢製薬も認知症治療薬の市場に強力な武器を持って殴り込みをかける準備が整いつつある状況だった。

プラセボを対照薬とした二重盲検比較試験とは、誰がどの薬を割り当てられたのか患者(被験者)も医療スタッフもわからない状態で行われる臨床試験のことで、実際の新薬を与えるグループと、新薬と見分けがつかないが有効成分が含まれず薬効のない偽物(偽薬・プラセボ)を与えるグループに分けて試験を行う。

前者を実薬群、後者を対照群と呼ぶが、どちらもランダムに選ばれるうえに、関係者の誰もが、誰がどちらの薬を飲んでいるのかわからないことが前提となっており、国際標準といわれる厳密な治験である。

 

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