医療経営戦略

本連載のポイント

・経営学とは利益の追求ではなく、すべてのステークホルダーを幸福にするための手段であり、医学と同様に「人とは何か」 を探求する学問です。
・医療経営が困難な理由は病院がヒューマンサービス組織であること、多種の専門職を扱うこと、市場競争のみでなく医療制度への適応が求められる点などが挙げられます。
・病院経営には部分最適ではなく、全体最適の視点を持った医療者の養成が不可欠です。

医療経営学が難しい理由

医病院経営に関してよく聞く諦めの声(特に事務職から)としては、「私たちどうせ変わりませんから…」「高度専門職の集団ですから…」「ともかく企業と違って特別ですから…」「偏差値が高くプライドの高い医師がトップなので…」などが挙げられます(学習性無力感と呼びますが本連載で詳しく述べます)。非営利組織であること以外にも、医療経営が難しい理由として以下の3つの理由が考えられます。

1.  ヒューマンサービス組織であること

サービス組織とは、その活動による無形の成果、つまりサービスを外部の受け手に向けて提供する組織のことです。金融、不動産、交通・通信、さらにホテルや観光などのサービス業を成り立たせているものが、サービス組織です。なかでも医療や保健、福祉、教育など、人が人に対して、いわば対人的に提供する組織を一括してヒューマンサービス組織と呼びます。

工場で製品を作って売ることと違い、病院は人が人に対して、いわば対人的にサービスを提供する組織であり、品質の評価や管理が困難で、工業製品と異なり、どこまで品質を高めればいいのかも分かりません [※1]。

サービスを受ける人の人格やプライベートにまで関わらざるを得ません。サービスの受け手の福利厚生を左右することもあります。ヒューマンサービス組織はわれわれの幸福の構築に直接関わっています。したがって企業のような合理的経営システムを組み立てることが難しくなります。

2.  多種の専門職のマネジメントが必要

企業の場合はピラミッド型に、価値観、規範、慣習を上層部から現場まで統一することが可能です(図1-左)。

一方、病院は医師、看護師、薬剤師、理学療法士、検査技師など多種の専門職の集合体です。各専門職は独自に在籍する専門職の集団(学会、医師会、看護協会など)の価値観、規範、慣習を持っており、それらの集合体で一つの病院組織を形成することになります(図1-右)。

[図1]医療専門職の管理の困難性