琵琶を背に下男を連れて大懺法院(だいせんぼういん)の門まで行くと、下男を綾小路家に帰し、生仏は一人杖(つえ)を頼りに本堂へ向かった。

「頼もう。

慈円様に、お目通(めどお)りを願います」

生仏は、長年鍛(きた)え上げた良く通る声を張り上げて言った。

「何者じゃ」

声を聴いて現れたのは、なんと慈円大僧正(じえんだいそうじょう)その人だった。

声を聴いた時に慈円は、その者のただならぬ気配(けはい)を見抜いたのであった。

吉水に大懺法院を建立してからずっと、慈円は待っていた。

自分の企てた壮大な試みに、欠かせぬ人物が寺に来る事を。もし自分の試みが天に叶(かな)うならば、必ずやその者は現れるだろう。慈円はそう思い、待ち続けていた。

「こちらへ、上がれ」

慈円は侍僧に命じて、生仏を私室へ招いた。

「そなたの名は」

「生仏(しょうぶつ)と申します。慈円様が一芸に優れた者を集めていらっしゃると伺(うかが)い、参上いたしました」

「ほう。それで、そなたは何ができる」

「琵琶をたしなんでおります」

「一曲、聞かせてくれ」

何年ぶりかで生仏は愛用の琵琶を手にした。

琵琶はこの時を待っていたかのように、しっくりと手になじんだ。

 

👉『平家物語創生記』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「いい?」と聞かれ、抵抗なく頷いた。優しく服を脱がされてキスを交わす。髪を撫でられ、身体を撫でられ下着姿にされた。そして…

【注目記事】マッサージを終えた私に「息子がまだのようだな」と薄ら笑いを浮かべる男。だが全盲の私はそれに気づかず…