【前回の記事を読む】「前の住人はここで亡くなっていた」——ベッドの手すりに首を吊り、死後時間が経ってから発見。現場を見た人によると…

夜空の向日葵

その建物は、割と他の棟から離れた場所にあった。エレベーターはなくて、そのかわりに階段が一つの建物に三列あって、その階段の両側に部屋がある構造になっていた。

目指す部屋は四〇二号室だ。一番奥の列の階段の下には、物を置かないでくださいという注意書きのすぐそばに、古い自転車が五、六台倒れかかるように置かれていて、そのほとんどはタイヤの空気が抜けている。

屋根の下の特等席にある比較的新しい電動自転車ですら、もうずいぶん乗っていないのか、電池は取り去られ、かごの中はチラシやゴミであふれている。

そのすぐ脇に郵便ポストが十ほど並んでいて、そこに名前が入っているのは十のうち三つだけで、ほかのポストには郵便物が入らないように薄緑のビニールテープが貼られている。

私は四○二と書かれたポストのビニールテープをえい、と剥がしてから、コンクリートの歩幅のせまい階段をぐるぐるとのぼった。

二階まできたところで、ゴミ袋が三個ほど行く手を遮るようにドアの前に置かれているのを踏み越えて、四階にたどり着いた。

重たい鍵を回しておずおずとドアを開けると、さーっと風が通って、私はおそるおそる室内に足を踏み入れた。入り口左側に、小さなお風呂と防水パンがあって、右側を見るとふすまが閉じられている。

おそらくこの部屋が問題の場所だろうと目星をつけてから、引き戸を開けてまっすぐ室内に入ると、想像していたよりも室内は明るく、右側の開け放たれた窓から、白くかすんだ外が見える。